指しゃぶりの発生とその原因について 


 指しゃぶりをする子供が増加しています。指しゃぶりは「開咬(かいこう)」や「上顎前突」などの不正咬合の原因となることがあるため、歯科で注意されることが多いが・・・・・・。
子供にとっての指しゃぶりとはいったい何でしょうか?

『ある母親の観察記録から』
 ケース:2歳5ヶ月の女児
  「指吸いがひどく、上の前歯がはえてきているので歯科検診で注意された。テープをはったり、夜はソックスを手袋にしてはめたりしているが、なかなかやめられない。昼間は外にいき、遊ばせようとしている。その間はよいのだが、夕方、こちらも食事の支度などで忙しく、かまってやれずテレビを見ていると、とたんにする。かわいそうだが指にトウガラシをぬってみた。一時的にはやめるけれど、効果なしでこまる。」


 この訴えをみて感じることは、指しゃぶりは簡単には中止できない、ということです。また、不適切な指導を行うと母親を神経質にさせ、かえって健全な親子関係にヒビをいれる結果となってしまいます。
 当院では習癖として指しゃぶりが存在しても、開咬がなければ母親に指摘しないことにしています。いたずらに指摘しても、母親を神経質にさせたり、子供に注意すれば逆に悪化する時期もあります(これは1歳6ヶ月〜2歳に多い)。
 一般に、小児科医は指しゃぶりについて全面的に否定することはほとんどありません。小児の精神発達という側面からも、指しゃぶりを「心の栄養」「心の杖」といった表現でとらえ、必要な道具として認識しています。また近年、指しゃぶりは人生の初期において、誰もが行う普遍的な行為とされています




 誰もが行う行為というのであれば、指しゃぶりの悪い面だけをとらえることは、子供の一面しかみていないことになります。これまで歯科では、指しゃぶりは問題行動としてとらえられてきたが、乳幼児の行動にはそれなりの意味があり、指しゃぶりについても考え直す必要があると思われます。また、小児期は生涯の中で最も成長発達の旺盛な時期であるため、3ヵ月児の指しゃぶりの原因と1歳6ヵ月児、さらに3歳児のそれとはまったく違うことを認識しなければなりません。

 歯並びに関して問題になるのは、3〜4歳をすぎても癖として残る指しゃぶりです。それより若年齢における生理的、心理的指しゃぶりは、むしろ暖かい目で見守るほうがよいと思います。
 子供はお母さんのおなかの中にいる胎生期にもうすでに指しゃぶりを始めています。1歳を過ぎるころから、子供は探求心が旺盛になります。これは自立心の芽生えでもあり、じょじょに子供が母親から離れて大きな世界へ旅立っていきます。

 さて、臨床的に指しゃぶりは親指を吸うことが多いです。親指の語源は「母親の代わりになる指」かもしれません。子供の心の発達の過程で、さびしいとき”親の代わり”に”親のつもりで吸う”「心の杖」が、指しゃぶりの現象で現れると考えられます。
 この時期に入ると、外的な対象物に探求心を覚え、遊びが広がっていくことになるが、このような子供では、比較的早期に指しゃぶりはなくなります。遊びの中に入る準備のできない子供に指しゃぶりが持続すると考えられます。これが乳児期後半以降”くせ”として固定化された意味のない問題行動としての指しゃぶりにつながります。そのようなケースでは、指しゃぶりはしなくなってもその他の癖となって残っていくこともある。こうなってくると歯並びという点からだけみても問題です。

 指しゃぶりをする子供には、子供なりの理由が何かあるのかもしれません。とくに、3歳以下の小児にみられる、生理的あるいは心理的な指しゃぶりを、子供の指に「とうがらし」を塗ったりして無理矢理やめさせることには賛成できません。
 ただし、4歳以上になって、癖として残った指しゃぶりが、開咬や上顎前突などの不正咬合の原因になっているような場合は、積極的に対応していきます。そのときには、シールやカレンダーをつかって、指しゃぶりをするのを我慢したらほめてあげるという方法を当院では行っています。指しゃぶりをしたらしかるというのではなく、子供本人の自覚をうながし、努力できたらほめてあげます。「オネショ」といっしょで、しかるだけでは効果はうすいです。かげで隠れて指を吸うことになってしまいます。子供の様子に配慮しながら、遊び心も加えて気長に対処していくのがよいでしょう。また、指しゃぶりが終わった後も「舌癖」が残り、不正咬合の程度のひどいものは、元にもどらないケースもあるため、乳歯列期の早期矯正治療が必要となるケースもたまにみられます。いずれにしても、大人が一方的に禁止や治療を押しつけるのではなく、子供自身の自覚 が育つように、根気よく待つことも大切です。


    「当院での指しゃぶりの対応」(クリックすると対応ページへジャンプします。)