一番多い歯並びの相談は? 

 私は、小児から老人までを対象としている一般開業医です。徳島という地方都市の片隅で開業して16年になります。近くに校医を務める小学校があるせいか、夏休みになると近所の子供たちが大勢、治療や検診に訪れます。そんな小学生たちに歯列不正が増加しつつあることを実感するようになって久しく思います。患者さんのそばでも、その治療についての関心が高まっています。

 歯並びの相談で多いのが、「やっと永久歯の前歯が生えてきたけれど、乳歯の裏側に出てきた。変な位置や方向だが、大丈夫だろうか?」というものです。そして小学校低学年で、はじめて歯列不正を意識するようになる子供が多いのです。

 そこで今回は、下顎の前歯から始まる叢生への対応について考察してみたいと思います。ただし、対象とする症例としては、いわゆるアングルの分類でいうI級叢生で、かつ歯のサイズが極端に大きくないものに限らせていただきます。また、症例提示にはセファロ等の資料は省略します。

よく噛む子供は叢生にならないか?

 萌出直後の前歯叢生の相談を受けたら、「まだどうなるかわからないから、少し様子を見ましょう」と答えていました。症例Tは、不介入のままずっと放置していたら、やっぱりひどい叢生のままで、本格的に矯正治療が必要となったケースです(図1)。

症例T


図1 a:初診時6歳 下顎側切歯の萌山スペースが不足
    b:9歳 上下前歯がすべて交換された。乳犬歯が吸収されて早期脱落。その後、不介入のまま
    c:18歳 ひどい叢生になってしまった


 こうなる前に何かできないか、と私はずっと考えてきました。
 当然ながら、永久前歯4歯の幅径の総和は乳切歯4歯のそれよりはるかに大きいが、下顎前歯の交換が進む時に、まぜ叢生になるものと、そうでないものがあるのでしょうか?私は、それには「咀嚼(そしゃく)」が大きく関係しているのではないか、と考えています。